「保育士の残業時間は、平均月3〜4時間」——厚生労働省の統計を見ると、そう記載されています。しかし、実際に現場で働く保育士の実感とは、大きなズレがあるのではないでしょうか。今回は、公式統計と現場の実態にどれほどの差があるのか、なぜそのようなギャップが生まれるのか、そして持ち帰り仕事を減らすための工夫まで、データを交えてまとめました。
この記事でわかること
- 公式統計上の残業時間と、現場アンケートで見えてくる実態の差
- なぜ「残業時間」に表れない負担が多いのか
- 持ち帰り仕事の内容と、その扱い
- 負担を減らすためにできる工夫と、園選びのポイント
この記事は、現役保育士(保育士歴6年)の「あやせん」が執筆しています。詳しいプロフィールは運営者情報をご覧ください。
公式統計と現場実感、なぜこれほど差があるのか
厚生労働省の調査(賃金構造基本統計調査)によると、保育士の月間平均残業時間は3〜4時間程度とされています。この数字だけを見ると、「保育士の残業は意外と少ない」という印象を受けるかもしれません。
しかし、業界メディアが独自に行ったアンケート調査では、まったく異なる実態が見えてきます。ある調査では、週に1度以上持ち帰り仕事をしている保育士が83.8%にのぼり、そのうち「ほぼ毎日」と回答した人も32.8%を占めました。別の調査では、時間外労働が「40時間未満」と回答した人が87.7%を占める一方、「70時間以上」という回答も4.7%存在しています。
この大きなギャップの背景にあるのが、「持ち帰り仕事は、そもそも“残業”としてカウントされていない」という構造的な問題です。制作物の準備や書類作成を自宅で行った場合、それは公式な労働時間の統計には反映されません。つまり、公式統計は「園に残って働いた時間」しか捉えられておらず、家庭に持ち帰られた労働は、統計の外側に隠れてしまっているのです。
残業・持ち帰り仕事として多い業務内容
- おたより・連絡帳の作成
- 制作物の準備(行事の飾り付け、教材づくりなど)
- 月案・週案・個人案などの書類作成
- 発表会・運動会の衣装や小道具づくり
- 会議・打ち合わせ
これらの多くは、本来であれば勤務時間内に給与が発生する業務です。しかし、クラス運営が各担任にある程度任されている構造上、園側がこうした持ち帰りの実態を正確に把握していないケースも少なくありません。
午睡中の業務も見落とされがちな負担
意外と見落とされがちですが、子どもたちのお昼寝の時間も、保育士にとっては「休憩」ではなく「業務時間」であることがほとんどです。5〜10分おきの呼吸確認(午睡チェック)を行いながら、その合間を縫って連絡帳の記入や翌日の準備を進める、という働き方をしている保育士は多いのではないでしょうか。
「残業」として扱われるかどうかの境目
法律上、労働時間とは「使用者の指揮命令下に置かれている時間」とされています。つまり、園から明確に指示されて行った業務であれば、自宅での作業であっても本来は労働時間としてカウントされるべきものです。
しかし実際には、「自主的にやっている」という扱いにされてしまうケースが多く、これが持ち帰り仕事が公式統計に反映されない大きな要因になっています。もし残業や持ち帰り仕事について「おかしいのでは」と感じた場合、まずは業務の指示があったかどうか、その業務が実質的に必須だったかどうかを振り返ってみることが、状況を整理する第一歩になります。
負担を減らすためにできる工夫
①テンプレートや文例集を活用する
おたよりや月案・週案などの書類は、ゼロから作成するのではなく、テンプレートを活用することで作成時間を大きく短縮できます。
②持ち帰った業務も記録しておく
「いつ」「何を」「どれくらいの時間」持ち帰って行ったかを、簡単にでも記録しておくことをおすすめします。実態を可視化することで、園内での改善提案や、万が一の未払い残業代の請求の際の材料にもなります。
③一人で抱えず、業務分担を見直す
行事の準備などは、担当を分担し、特定の職員に負担が偏らないようにする工夫も有効です。
④ICTツールの活用を提案する
連絡帳のデジタル化や保育業務支援システムの導入は、書類作成の負担を大きく減らせる可能性があります。園に導入実績がない場合は、一度相談してみる価値があります。
園選びの際に確認したいポイント
転職や就職を考える際は、求人票の「残業時間」の数字だけを鵜呑みにせず、以下のような点を確認することをおすすめします。
- 持ち帰り仕事を前提とした業務量になっていないか
- 行事の準備期間中の勤務体制はどうなっているか
- ICTシステム(保育業務支援システムなど)を導入しているか
- 残業代が正しく支給されているか
面接の際に、実際に働いている保育士の声を聞かせてもらえないか相談してみるのも、実態を知る一つの方法です。
よくある質問
Q. 持ち帰り仕事は残業代の対象になりますか?
A. 業務命令として行った持ち帰り仕事であれば、本来は労働時間として扱われ、残業代の対象になり得ます。ただし、実際に請求するには、業務指示があったことや作業時間を証明する記録が重要になります。まずは記録を残す習慣をつけることをおすすめします。
Q. 持ち帰り仕事を断ってもいいのでしょうか?
A. 業務量が明らかに勤務時間内で終わらない状況であれば、園内でその旨を相談することは正当な権利です。一人で抱え込まず、主任や園長に業務量の見直しを相談してみましょう。
現場からのひとこと
入職したばかりの頃、発表会の小道具づくりが終わらず、何日も自宅で夜遅くまで作業をしていた時期がありました。「みんなこれくらいやっている」と思い込んでいたのですが、後から別の園で働く友人に話したところ、「うちはそこまで持ち帰らない」と驚かれたことがあります。当たり前だと思っていた働き方が、実は園によって大きく違うのだと知った出来事でした。
まとめ
公式統計に表れる残業時間と、現場で実際に発生している負担との間には、無視できないギャップがあります。その背景には、「持ち帰り仕事は統計に表れない」という構造的な問題が隠れています。一人で抱え込まず、実態を記録し、園内で共有していく姿勢が、少しずつでも働き方を変えていく第一歩になるのではないでしょうか。
保育士の給料や処遇改善等加算の仕組みについては、保育士の給料とキャリアアップの記事で整理しています。 >

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