「先生、今日もありがとうね」
保護者の方からのそのひと言に、私はなんとか笑顔で「こちらこそ、ありがとうございます」と返しました。でも実は、胸の奥では小さなため息が渦を巻いていました。
今日は、正直ぜんぜんうまくいかなかった。
朝からつまずく一日
その日は月曜日。週の始まりに気合いを入れて出勤したものの、登園の瞬間からつまずきました。いつもニコニコとやってくる3歳児のAくんが、玄関で泣き出してしまったのです。
「ママがいい〜!せんせい、イヤ〜!」
他の子の受け入れも重なり、彼の思いにじっくり寄り添ってあげる余裕がなく、抱っこして教室へ連れていくしかありませんでした。
そのあとも、園庭に出る準備で靴下がうまくはけずに泣く子、トイレを嫌がって失敗してしまった子、製作中に絵の具をこぼしてしまった子…。
1つ1つはよくある出来事。それでも「先生が上手にリードできていたら、もっと落ち着いていたのかもしれない」と自分を責める気持ちが湧いてくるのです。
子どもたちにも、私にも、余裕がなかった
振り返れば、子どもたちにも理由がありました。週末に生活リズムが崩れたのかもしれないし、新しい環境に疲れが出てきたのかもしれない。
でも、そのときの私は「なんでみんなこんなにうまくいかないの」と心の中でつぶやきながら、目の前の状況にいっぱいいっぱいになっていました。
保護者の目に映る“先生”
保育士として働きはじめたばかりの頃、私は「保護者から頼られる存在でいなきゃ」と気を張っていました。
でも実際には、怒ったり焦ったり落ち込んだり、人としての感情が日々ぐるぐるめぐる。
そんな私を、あるとき保護者の方がふとした雑談の中でこう言ってくれました。
「先生が人間らしくて安心します。家で“先生だって怒るんだよ”って子どもに話すんです」
その言葉に救われた気がしました。
完璧でいることが信頼を生むわけじゃない。むしろ、心を尽くして悩んでいる姿そのものが、信頼につながることもあるんだと。
同僚に話して気づいたこと
帰りのミーティングで、勇気を出して「今日はちょっと失敗続きで落ち込んでます…」と漏らすと、先輩保育士がさらりとこう言いました。
「そういう日もあるよ。私なんて週3くらいで思ってるよ(笑)」
みんな同じなんだ、と笑えてしまって、少し泣きそうにもなりました。
それから私は、完璧な保育士じゃなくてもいい、子どもと一緒に成長していく存在でいよう、と思えるようになったのです。
保護者へ、伝えたいこと
園での様子をお伝えすると、「うちでも今日は朝からグズグズで…」と教えてくれる保護者の方がいます。
家庭でもうまくいかない日がある。それはどこでも同じこと。
だから私は、「今日はうまくいかなかったね。でも、明日はまた新しい日だね」と、保護者にも、そして子どもにも、伝えています。
そしてそれは、私自身にもかけている言葉なのです。
最後に
保育士だって、うまくいかない日がある。
でも、その先に、誰かの一歩や、笑顔につながる日もきっと来る。
子どもと一緒に、悩みながら成長していけるこの仕事に、私は今日も感謝しています。
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