「そうなんですね、家でもよく言って聞かせます」
その一言と表情に、胸がギュッと締めつけられました。
あの日の帰りの時間、保護者の方と交わした会話が、私にとって“伝えること”の難しさと向き合うきっかけになったのです。
■ きっかけは、ひとつの注意から
年中クラスのCくんは、明るくて元気な男の子。ですが、集団の中での自分のペースを大切にしすぎる傾向があり、活動の切り替えがうまくいかない場面が続いていました。
その日も、お片づけの声かけに応じず、友だちのブロックを壊してしまう姿が。私は落ち着いた口調で「お友だちが困っていたよ」「片づけの時間だよ」と伝えました。
その出来事を、お迎え時に簡単に保護者の方へ伝えたのです。
■ 「伝えた」はずが、「伝わらなかった」
「今日はお片づけの場面で、お友だちのものを壊してしまった場面がありました」
私としては、“その場でCくんと気持ちを確認して、今は落ち着いています”というニュアンスも込めて伝えたつもりでした。けれど、保護者の方は落ち込んだような表情で
「そうなんですね、家でもよく言って聞かせます……」
私はハッとしました。
表現として“行動”ばかりを伝えてしまっていたことに。
私の言葉は「注意」にはなっていたけれど、「共に育てるための対話」にはなっていなかったのです。
■ 私の園ではどうしていたか
私の園では、連絡帳ではなく“対話”を大切にしています。
できるだけ毎日、短くても保護者と直接話す機会をつくり、「様子を共有しながら一緒に考える」スタンスを意識しています。
でもこのときの私は、時間に追われて「情報を渡す」ことに意識が向いてしまっていました。
保護者の気持ちに寄り添う余白を、私自身が持てていなかったのです。
■ 保育士と保護者、“育てる”仲間として
翌日、私はもう一度Cくんのお母さんに声をかけました。
「昨日の伝え方が、一方的になってしまったかもしれません。Cくん、友だちと遊びたい気持ちがとても強くて、だからこそトラブルになることもあるんだなって、私たちも感じています。」
するとお母さんは、少しほっとしたように笑って「そうなんです。家でも“なんで僕はダメなの”って言ってて……。でも、そうやって受け止めてもらえると、私も救われます」と話してくれました。
私の「伝え方」ひとつで、親子の気持ちに届くかどうかが変わる。
保育士としての責任と、大切な役割を改めて感じた瞬間でした。
■ 伝えることは、信頼を積み重ねること
それから私は、保護者に伝えるとき、「行動」だけでなく「背景」と「気持ち」を必ず添えるようにしています。
「〜してしまった」だけで終わらせず、「それは、こういう気持ちの表れだったのかもしれません」と伝える。
それだけで、保護者の表情が変わり、「一緒に考えてくれている」と思ってもらえることが増えました。
■ おわりに
保護者とのやり取りに、完璧な正解はありません。
けれど、私たち保育士は「毎日の小さな関わり」を通じて、信頼を育てていくことができます。
“伝える”ことは、“寄り添う”こと。
そしてそれは、子どもにとっての安心や成長にも、必ずつながっていくと信じています。
※記事内のエピソードはプライバシーに配慮し、内容を一部再構成しています。
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